で開催中(2008年7月1日〜9月15日)の
ウィーン美術史美術館所蔵「静物画の秘密展」
に行って参りました。 タダヨリコワイモノハナイ? 宿題付きの観覧
でしたので久々にレポ書きます。 怠者にはこういう締めが必要ですな。
(
入りきらずに、下方に行ってしまっています。
見づらくて申し訳ありません
次の記事をアップしましたので、サムネイル表示に変更します。
1クリックで原寸写真になります。)
国立新美術館外観 故黒川紀章氏の鼓動が聞こえるような…(合掌)
西洋の「静物画」と聞けば、思い浮かべるのは大きな花瓶に溢れん
ばかりに生けられた花々やテーブルの上に豊かに盛られた果物など。
しかしこの日、それが単なる一面でしかないことを、ウィーンの美術館
の副館長カール・シュッツ氏のお話の中で学んだ。
日本語の「静物」とは英語の「Still life」そのものの和訳であろう、
しかし、それは単に「静かなる物」の写生ではなかった。
何と表現したらぴったりくるだろう…。 つい先程までは「生物」だった
狩の獲物も猟銃で撃たれて吊るされれば、血の滴る「静物画」の対象となる
のなら、「時が止まった命」「息が止まった命」とでも言うべきか。
また「静物画」を示す言葉も、nature morte(仏)、natura morta(伊)
となると、「死んだ⇔自然(生命)」と更に反語のような問いかけを
含んでくる。 但し、この場合の「自然」はいわゆる大自然の概念では
なく、「ありのまま」「写実」の意を表すという。
そしてそこに描かれている物にはそれぞれにメッセージがある…と
いう所で、ふいに禅画のことを思い浮かべた。 禅画に描かれている
物には、同じ様に各々に意味付がなされていることが多く、表面的な
絵画でのみならず、見る者に何かを伝えよう考えてご覧の意図がある。
(拙稿「百事如意」に詳細あり。)
作品解説を熱く語るウィーン美術史美術館副館長カール・シュッツ氏
優しそうな青い瞳が…嗚呼、写ってなくて残念。
例えば、このヴァニタス「虚栄」という絵へのシュッツ氏の解説によれば、
それらは禅画よりずっと直接的で分かりやすいが、
天使の持つカメオと指差す地球=カール5世の支配した帝国
髑髏・火の消えた蝋燭=栄華の儚さ
甲冑・鉄砲=戦いの虚しさ
砂時計=過ぎ去ってしまった時
貴金属・金銀貨・美女の肖像等=死後には価値が無いもの
カード=さて? 詳しい方なら何の暗示かお分かりかも…
そして手前の髑髏の前のテーブル上には「NIL OMNE」の文字が刻まれ
ている。 「NIL OMNE=Everything is nothing=全ては空」と言えば
「照見五蘊皆空」。 お釈迦様の悟りと同じ。
人の思考の到達点は洋の東西を問わず、共通点も多い。
そう、静物画といえば花と花瓶。 しかし、こちらも曲者だった。
ありのままの花たちを描いているようでいて…よく見てみると、自然界
では決して同時期に咲くはずのない花々が一緒に生けられている。
(当時は温室栽培は未だ無い筈)つまり、実際にこれら全部の花が生け
られている状態を実際に見て写生したものではなく、別々の時期のもの
を描き合わせていかにもそこに存在した(する)かのように描き出している訳だ。
「時の止まった命」「死んだ自然」…ナルホド。
青いの中国壺という貴重な品に生けられている花々もまた、当時莫大
な富を生む投機の対象でもあり、その価値を永遠に封じ込めた絵画の
価値も相当なものそうな。
儚い命の花々も「死んだ自然」の中で、「永遠の命」を得て莫大な
富を生む、それもまたヴァニタス、パラドクス…う〜ん、頭が捩じれそう。
ここには載せていないが、解体途中の牛の開きやら、死屍累々と言っ
た風情の狩の獲物の「静かなるもの」達の「美」については…?
美味しそうに見えるのか? 蟹や魚等の絵には、私もちょっと食指が動いたし、嗜好の差か。
ルーベンスの美女たちの柔らかな肢体の前で癒され、暫し休憩。
・・・
処で何故この絵が「静物画の秘密展」に並んでいるのでいるのか?
実は背景や脇の小道具などに注目すると、これまた各々に意味が込めら
れているとのこと。 しかも背景/果物・猿を描いたのはルーベンスで
はない他の画家で、3名の共同作業で仕上げられている。
因みに、
インコ=愛 雉=貞節 犬=忠節
イルカ(噴水)=惚れっぽさ 猿=愚かさ
を表しているのだそうな。 今度からこういうモチーフを見たら、
要チェックかも^^; まぁ、もっと素直に楽しんでもよいだろうし、
そういうことが分かると更に面白い発見もあって楽しめる人(私?)も
いるだろうし。
ふっくらした牡蠣に胡椒を一振りレモンをジュッと絞って戴きたい。
これは当時の健康食イチオシの組み合わせだったそうな。
(そうそう、この絵の立体再現コーナーもあり。 暗い画面を覗きこん
でいる人を見たら、変なのと飛ばさずに続いて覗くと見える。)
葡萄とサクランボそれに葉っぱは、どうもガラス細工のようで瑞々し
さが足りないと思うのは、日本の湿度の中でしかそれらを見たことがな
いからだろうか。
若い頃の中尾ミエ似?の肖像は、唯一我が家にも掛けられそうな小品。
静物画の秘密というテーマに沿えば、注目すべきは、可愛らしい胸元で
はなく、右手に持つ高杯やら胸に抱えた果物やら、牡蠣やら布の表情などか。
やはり静物画ばかりでは、ずっと一般の興味を惹き付けるのは難しか
ろうということで、要所要所にこうしたサービス作品が掲げられている
のかもしれない。
最後の大きなプレゼントは、ベラスケスのマルガリータちゃん。
ちゃんと傍らには可愛らしい花と花瓶が添えられている。
内覧会ということで俯瞰写真の撮影が許可されていたが、何をどう
撮るべきか悩んだ末、作品の大きさが大体分かるように人様のお姿を借用し、こんなものを撮ってみた。
← マルガリータちゃんは想像より小さめ。
東京展の後の巡回先(予定)です。
●仙台展
2008年10月7日(火)〜12月14日(日) 宮城県美術館
●神戸展
2009年1月6日(火)〜3月29日(日) 兵庫県立美術館
●青森展
2009年4月〜6月 青森県立美術館
<プレヴューに同行参加された皆さんのレポ>
・Takさん 「弐代目・青い日記帳」
・とらさん 「Art&Bell by Tora」
Takさん、とらさんのお二人の美術展レポは留まるところを知らず、
もうこの展覧会レポも、Top pageから拝見しますと、遥か過去のこと
のように下の方の記事になっており、ビックリでした〜
他の展覧レポも必見です。 見たいもの沢山有り過ぎて困る〜
・kyouさん 「徒然日記」
・m25さん 「Magrittianの道程」
・Nikkiさん 「Megurigami Nikki」
・えみ丸さん 「いつか見た青い空」
(レポは未だのよう? 見つけられなくてごめんなさい!)
←ポチッとクリックの応援、宜しくお願いしま〜す
新しいカテゴリ「生活・文化(全般)」に移動しました。
8日朝は21位にしていました。 ありがとうございます(゜―Å)
ラベル:国立新美術館
生物から静物、正にそのとおりですね。静物になったからこそ、永らえて今私たちが見る事も出来るわけですね。
付録の花の名前も拝見しました。とてもお詳しいのですね。私はあまり知らなくて。
花は似た様なものが多くて、同定するのがとても難しいですね。
TBさせていただきました。
画像加工については
mixiにメッセお送りしておきました。
ご参照ください。
宿題御苦労さまでした!
ただその象徴が、これはあれを、こっちは何かを、と象徴の世界が固定されているのですね。
禅画の象徴はあくまでも、作者の想像をほのめかすだけで、そうとも言える、あ〜とも言えると固定的ではありませんね。
同じく象徴といっても随分違うのだと感心しています。
ありえない世界の表現は、死んだ世界の表現、そうなのですか、
習ってみると面白い世界が広がりそうです。
「生物から静物へ」同じことを考えていた方がいらして
嬉しいです。 書こうと思ったのですが、マニアックすぎると
思い止めたので、特に^^。
「セイブツ」という同じ音なのに相反する意味だなんて、
lifeとmorteの関係とも対比して面白いですよね。
still=morte 、 life=nature で同様の意味となるのに、
そこに「生と死」の反する言葉があるなんて、詩的です♪
TB、チェックしたのですが、届いていないようです。
ブログ管理社同士の相性の問題?もあるようで、どうも特定の
ブログ間で上手くいかないことが多いようで残念です。
先生、宿題間に合ってホッとしましたよ〜(><)
縮小ソフトの件、ありがとうございました。
明日、時間が取れたらチャレンジしてみましょう。
このままの画像も綺麗なので、暫くはいいかな〜なんて
悠長なことも考えておりますが…(苦笑)
細部にまで写実を突き詰めて描きつくした西洋の静物画、
簡略な筆致で精神を映し描いた禅画、同じことを伝えたかった
としても、そこに文化の違いがありますね。
埋め尽くす文化と空間を大切にする文化。
西洋建築物の中に居ると圧倒的な情報量に段々と息苦しくなり、
日本に帰ってくると解放された気分になります。
ただっ広いどこまでも続く空は却って埋め尽くさないと、
高く高く塔を伸ばさないと不安になるのでしょうか。
樹木が生い茂り切れ切れに覗く空や木漏れ日のの下で暮らす
私たち日本人は、空間の醸しだす美に癒されるのかもしれません。
生まれ育った環境は大きいですね。
フランス語の nature morte は、直訳すれば「死んだ自然」
ですが、この場合は「動かなくなった」の意味で、英語のstillと
ほぼ同義なのだそうです。 そんな説明があったことを一緒に
プレビューに参加した方のブログ*を拝見して思い出しました。
同じ「静物」を表す言葉の中に、原語によって「生命」と「死」
を意味する相反する言葉が使われている所が面白いです。
だめだ〜
愚生の一番苦手なタイプの絵が並んでる〜(笑)
静物が嫌いとかじゃないんだけど…
あはは〜分かります、分かりますよ、ごめんなさいね〜^^;
私も子供の頃、こういう絵の画集を見ていて
「ガラスで出来た花?」
「だらしない盛り付け」
「太っちょのオバサン達」等など
まぁ、総じて「本物みたいですご〜い」+「変なの〜」な
感想でした。
しかもアチラでは、石造りのくら〜い部屋に飾ってある訳
ですから…う〜ん^^; 大人になったので、表現文化の違い、
当時の人々の心象風景、風俗などという観点からも楽しめました。
ルーベンスの「デカメロン(ボッカティオ)」の一場面の絵は、
神社奉納物語絵馬みたいだな〜なんて。
おお、このことだったのですね。
綺麗な画像を見せていただき、行った気分になるわたし。
この展覧会は予定を組んでいないので、こうして画像を見せてもらえるだけでなく、山桜さんの感想も読めて、それだけでも嬉しいです。
ありがとうございます。
あまり 観に行く機会がありませんので
たいへん 新鮮な印象を受けました。
やはり いいものですね〜ありがとうございます。
長らくブログ等やっていると、こんな幸運に恵まれる事も
あるのですね〜 「PRESS」シールなんて貼って、似非記者気分(笑)
主催者から提供される画像は流石に美しく…なんて、今一度
眺めていたら、ルーベンスの横たわる3美女の肢体とその下の
ヘームの絵のぷっくりした3つの牡蠣がダブって見えて大笑い!
日本では印象派は大変人気がありますが、こちらのような展示は
かなりお好きな方か美術系の学生さん向きかもしれませんね〜
写実ゆえに、当時の衣食住、風俗、美意識、植物の好み等
資料的な価値も高く、同時代の日本のそれらと比較するのも
面白いと思います。 神戸に巡回の折、如何でしょうか〜?
TBさせて頂きました。
静物画は西洋絵画のジャンルなのに、
日本語で生物→静物と表現出来るのって
なんだか凄い…と感嘆しました。
東洋の思想と比較出来たり、
東洋の磁器が描かれたりしているのも興味深いですが、
静物画には見えない絵も多かったのが、
こじつけといえるかもしれないものの
そこからまた色々と世界が広がりそうで、
これはこれでありなのかな?と思ったりもしました。
私は美術系ブロガーではないので、参加者の皆さんの熱論に
新鮮な刺激を戴きました。 幸福な時間でした。
またお会い出来る機会があれば嬉しいです。
静物画だけで見せるなら、せっかく美術史美術館なのですから、
長い時代での変遷も見せて欲しかったなぁと思いました。
ごめんなさい、TB管理画面を探したのですがみつかりませんでした。
TB頂いたのにお返し出来なくて申し訳ありません。
ほんと今回は有難い企画でした。
人見知りで人の顔と名前を覚えるのが苦手なので
あまり積極的に出かけないのですが、
今回はこぢんまりとして勉強にもなって、
皆さんに感謝者、でした。
ウィーンは素敵なミュージアム沢山あるよね。
マルガリータちゃん(笑)はピカソがいっぱい
いろんなパターンで模写してたね。
解説を聞くと面白いね。美術館に行くときは
イヤホンガイドを借りることも多いけど、やっぱり学芸員とか専門家の解説は興味深いよね。
2009年1月6日(火)〜3月29日(日) 兵庫県立美術館
これぐらいの期間ですと 観に行けるかもわかりません。
行ってみたいですね〜。教えて頂いてありがとうございます。
昨日、無事TBが到着していました。 何度かやれば成功する
こともあるのですね。 私もめげずにとらさんとkyouさんの所に
再度送ってみます。
私、m25さんとは初対面ではないような気がしました。
どこかでお会いした事があるような、懐かしい気持がして…
前にそんな気がした人の時には、数年経ってから、何度か
部活の練習に来て下さっていた高校の先輩だったことが判明
したことがありますので、若しかして…う〜ん。。。
日本の方は目を合わせないようにすることが多いけれど、
外国の方は、一生懸命聞こうとすればするほどこちらを見て
話して下さるような気がして、優しい目に吸い込まれそうな
気がしたよ。 伝えようとする気持、聞き漏らすまいという
心の交流が心地よかった〜
マルガリータちゃんは成長するにつれて、残念な感じに
なっちゃう…なんてお話も参加者の方から伺って愉しかった。
皆さん、もう博識で素晴らしすぎ! TBができないので、
記事に皆さんのブログのリンク貼っちゃおうかな〜
美術好きのそらっちには、是非ともお薦めよ♪
よく見かける有名どころの絵では無いだけに、滅多に実物を
見ることの出来ない貴重な機会かと思います。
綺麗な絵の裏に隠されたもの、目を背けたくなるような
シーンを凝視して描く画家の心理など、色々考えさせられる
展覧会でした。
失敗した後にやり直せたのは初めてかもしれないので嬉しいです。
ぼーっとした風体ながら、知り合いに似てると言われたり、
知らない人に覚えられてたりとかいうことが意外にあるのですが、
もしかしてどこかですれ違ってたりするのでしょうか。
思い出されたら是非教えて下さい。
(でも数年経ってからわかるってすごいです。
とにかく物覚えが悪いので、記憶力がいいのは羨ましいです。)
TBってよく分かりませんね。 特定のブログ間でのヤリトリは
どうしても上手くいかないこともあるし、後でやり直すと成功
することもごく偶にあるようです。
「誰かに似てる」というのでなくて、「あ、初めてじゃない」
と感じる時は、先輩の時以来、とても気になってしまって…。
というのも、その先輩だと気付いた時には引っ越されていて、
連絡も分からなくなってしまったんです。 もう少し早く
分かれば、旧交を温められたのにと思うと残念で…。
西欧でも季節を描き分けていたのが印象的でした。
日本の表現とは随分違うけれど・・・
おお、流石マルガリータちゃん、集客力抜群ですね!
(彼女がいないと、なかなか静物画だけ見に来る人は…^^)
仰るとおり、顔の表情の細やかさに比べ、拝見、特に絨毯
などは粗いなぁと思ったのですが、これがちゃんと離れて
みると絶妙なバランスで、マルガリータちゃんが浮かび上がる
のですね。 ベラスケスは描き込み一辺倒な画家とは違い
空間を意識した画家と思いました。