2010年09月18日

お稲荷さんの油揚げ

 狭いバス通りの歩道の向こうから、買物車を引いたお年寄りがやって来る。 横道と交わる辺りですれ違おうと私は歩を早めたが、あちらは歩道の真ん中に買物車を置いて止まってしまった。 バス通りの車線いっぱいにバスがやって来る。 おばあさんの手前で穏やかに待つしかなくなった。

 「お稲荷さんの油揚げ2枚ね」

おばあさんは言った。

 バスが行き過ぎ、会釈して歩を進めながら、
 『ああ、お稲荷さんにお供えする…』
そう思ったものの、果たしてお稲荷さんにお参りに行くとして、わざわざ「お稲荷さんの油揚げ」と言って買うだろうか? そのお豆腐屋さんは、若しかして少し規格外の品を「お供え用の油揚げ」として取り置いているのだろうか?

 『いやいや、お稲荷さん用と言えば、普通は稲荷寿司用の油揚げ?』 
そう、酢飯を詰めるのに薄揚の中がはがれ易い、少し厚めの油揚げなら売れ筋として用意されているかもしれない。
 『でも…「2枚」だけ?』
 稲荷寿司を作るのに油揚げ2枚ではたったの4つしか出来ない。 それにそんな少しだけでは美味しく味を煮含めることも難しい。 では、既に味も煮含めたお揚げかも? それでも2枚は少なくないか…お稲荷さんといえば晴れの日のもの、それを寂しく一人分? 

 引き返してお豆腐屋さんやおばあさんに問い質す訳にもいかず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま駅へ向かうと、小さな稲荷社の赤い鳥居の蔭から油揚げを咥えた狐がチョコンとお辞儀し、黄金色の尾を光らせながらコ〜ンと森へ消えていった? 鎮守の杜のお稲荷さんがお呼びのようだ。
 
ラベル:稲荷 油揚げ
posted by 山桜 at 15:15| Comment(12) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
いいお話です
ちょっとした掌編です
ほのぼの感と
摩可不思議感

愚生
きっと前世は狐
と思うくらいに
油揚げ大好き
お稲荷さんで
狐さんと
対面すると
思わずにんまり
Posted by 幽黙 at 2010年09月18日 20:02
◆幽黙さんへ
 振り返ってあのおばあさんが消えていたら…がちょ〜んって(涙;;)

 お稲荷さんの狐が怖いと言う人と、可愛くて堪らないという人の
二派に分かれますよね。 私の周りには後者が多いです^^♪
Posted by 山桜 at 2010年09月19日 15:36
近所に小さな延命お地蔵があり、定番のように赤い前垂れをしています。時々お団子やお饅頭が供えられていて、手を合わせつつ、いつもそのお供えが気になって気になって、、、。
いえ、失敬したりはしませんよ。。。
Posted by キミ at 2010年09月19日 23:23
赤い鳥居の蔭から油揚げを咥えた狐
おばあさんと同じ髪飾りしてませんでしたか
道を譲ってくれてありがとうって
チョコンとお辞儀をしたのでは

郡上八幡だったか?
通りの角のお稲荷様の前を通るおばさんが
足を止め手を合わせる姿を見て
ここを通る度に手を合わせるんだろうな
そう思うとなんだかホッとしたような
嬉しいような温かい心になりました

せめて、地元の神社仏閣道祖神お地蔵様・・・
信仰、祈りの対象がそこにある
その訳や先人の込めた願いなど
後世に伝えないといけないと思う
今日この頃です・・・が
自分自身よく解らないので・・・
Posted by 多楽 at 2010年09月20日 08:43
◆キミさんへ
 こちらでもお地蔵様はとても大切にされていて、どこの
お地蔵様も綺麗に飾られて、お花やお供えものが途切れません。
お地蔵様は子供を守ってくださる仏様。 子供を大切にしている
土地柄なのだと嬉しくなります。 

 お供えもの、気になりますよね♪ 分かります^^ 
Posted by 山桜 at 2010年09月21日 00:47
◆多楽さんへ
 いつもお花やお供えものが途切れることの無かった馬頭観音さま、
ある時からパタリと何も… 恐らくずっとお参りしていらした方が
彼岸へ旅立たれたのだと思います。 旅の安全を守って下さる
馬頭観音さまですから、きっと無事にあちらへ渡られたことでしょう…。

 やはり心を向ける人が居なくなると、寂れてしまいますね。
私もついつい通り過ぎてしまうことが多くなりました。
急いでいる時でも、せめて心の中で手を合わせたいと思います。

 ご存知の方がいらっしゃる内に、気になることは伺って
おきたいですね。 私も出来るだけ調べたり土地の方にお話を
伺う機会を得たりするよう心掛けています。
Posted by 山桜 at 2010年09月21日 00:56
ほんと何か映画のワンシーンのようです。
いま偶然ながら油揚げと小松菜の煮びたしを作ったところ、揚げは2枚でした(笑)

察するに山桜さんがおっしゃるように稲荷寿司用の油揚げなのかと思いました。
もしかしてご夫婦の2人分かなと思ったり。
ちなみに私はいつも2枚の油揚げを煮含めて作ります(笑)
そんなちょっとした処を見つめる視点が素敵ですね。

実はわが家の庭にはかつて、狐の本当のお稲荷さんの祠がありました。
子供心に恐くて近寄れなかった思い出があります。
きちんとお祓いをして取り壊したようですが、その後の没落ぶり??は狐のたたりかもしれません(笑)←(笑ってる場合ではない)
Posted by きえ at 2010年09月21日 19:47
キツネも「お月見」ですか?

2010年は9月22日に「中秋の名月」を迎えます。

アイルランドとアメリカの美しい音楽を贈ります。

♪ 「イニッシュフリーの島」(Isle of Inisfree)
  http://www.youtube.com/watch?v=54Oc-LsMVS4&fmt=18

♪ 「シェナンドー」(星々の美しい娘)

どうぞ、お聴きにいらしてください。
Posted by 美幌音楽人加藤雅夫 at 2010年09月22日 12:10
◆きえさんへ
 そうですよね〜、稲荷寿司でなくとも、間に刻み葱やお味噌を
挟んで焼いたり、お餅や卵を入れて煮たりする事だってあるのに、
『ああ、お稲荷さんにお供えする…』
と思ってしまった自分、そうに違いないと理由付けをして歩く
自分が可笑しくて、お稲荷さんに呼ばれてるのかな〜と…^^

 お稲荷さんは、本来は豊受毘売神(とようけひめのかみ)
=豊かな食物(宇気うけ)の女神様の意、俗に宇迦之御霊・倉稲魂神等と
記され「うかのみたまのかみ」のお名前で知られる稲や穀物の神様。

 狐さんは、その神様の眷属なのですけれど、その印象が強くて
今では、お稲荷さん=狐さん と思われていることが多いですね。
狐さんの色や、弧を描いて跳ねる体躯・尻尾が稲穂を連想させる
ことから稲の神を守るお役めを担ったのでしょうか。

 また稲荷神社には、伏見稲荷系(神道・上記の神様)と
豊川稲荷系(仏教のダキニ天)があります。 きえさんのお宅に
お祀りされていたお稲荷様がどちらかはもうお分かりなら無い
かもしれませんが、何か気になることがおありでしたら、
鎌倉とんぼさんのHPの中の掲示板「神様のぶらんこ」が
おすすめです^^
Posted by 山桜 at 2010年09月24日 09:05
◆美幌音楽人加藤雅夫さんへ
 月とくれば兎ですけれど、狐もお月様は大好きだと思います。
コ〜ンと鳴きながらお月様へ向かって跳ねている
ことでしょう。

 いつも美しい音楽と映像のご紹介ありがとうございます!
アイリッシュの方々の音楽も文化もどこか日本人と通じる所が
あるようで親しみを持っています♪

 こちらへお越しの皆様にも愉しんで頂けると嬉しいので、Isle of Inisfreeの
リンクを貼りました。 加藤さんのサイトへも是非!
Posted by 山桜 at 2010年09月24日 09:16
    
 手作りの月餅も美味しそう-☆♪

 そしてこちらでは、子供から大人まで楽しめるような童話の世界に
迷い込んだ様で、目の前のストレスから幾分でも解き放たれました^^

 とうとうゲゲゲの女房も終わって仕舞いましたね><; 寂しいです。
Posted by メダカの目 at 2010年09月26日 07:43
◆メダカの目さんへ
 月餅といえば、御地が日本最初の渡来地、本場ですし、
メダカの目さんなら美味しいマイレシピをお持ちでしょう!
私の拙い初めての月餅、お恥ずかしいです(。。;)

 武蔵野台地と低山の出会うこの地には、昔から沢山の狐さんが
住んでいたようで、伝えられてきた民話もいろいろあります^^
夢想の中ではなく、いつか本物の狐さんに会いたいなぁ…

 ゲゲゲ・ロスト症候群ですね〜 (ため息・しょぼん。。。)
そうそう、今日の6時のニュースの後、松下奈緒さんが
「ゲゲゲの女房を語る」番組ありますね! 見逃さないように
今から早速スタンバイです♪
Posted by 山桜 at 2010年09月26日 17:41
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