「少しピンクになって来たかな?」
「雨が降って暖かくなれば早いんだけどね」
そんな風に待ち遠しく眺めていたあの桜の木の下に立ってみた。

「やっと咲いたね、やっと一緒にみられたね」
右手には私にだけ分かる主人の手がしっかりと握られている。

「一分か2分咲きかな。 近くで見るには一番きれいな頃ね」
「そうだなぁ ホントきれいだなぁ」


「幹に直接咲くのはキモチワルイとか言ってたけど、観察するにはいいのよ」
そんなことを言いながら、パチリパチリと写真を撮る私のことを、
「『まただよ・・・』と言いながらも、そんなに嫌そうでもなく見ていたんだよ。 待っててはくれなかったけどね。」
「何でも興味を持ってのめり込んでいくとこ、好きだったんじゃないかな」
と、ケロから最近聞いた。


「16年前の手術の後、この道を点滴をぶら下げてリハビリに通ったね。 あんな大手術の後なのに、早く復帰してやろうと言う気迫を感じてた。 ホント、ずっとずっと頑張ったよね」
透き通るような若葉が青空に映えて、
「若葉の君って呼んでいたの、覚えてる?」
「覚えてる・・・ふふっ」

「柔らかそうな蕗ね、今年はバッケ(ふきのとう)摘みそこなっちゃった」
「天ぷら食べたかったなぁ。 もう無いかな?」
もし、あっても薹が立ってとっくに花が咲いてると思いつつ、下を探すと、


タチツボスミレやショカッサイ(諸葛菜/紫花菜、花大根、大アラセイトウとも)が咲いていた。
こんな散歩道で美味しそうな春の味覚が取り残されている訳がない。

例の如く、呆れ顔の主人に待ってもらいながら、コマコマと観察し写真を撮りながら尾根道に上がった。(観察記録はまた別の機会に)


低い擬木の柵の南側と有刺鉄線付きのフェンスで囲われた北側、色々な事情が垣間見られる光景だ。
山から下りて線路沿いの道に出ると、ふわっとハチミツの匂いに包まれた気がした。

満開の菜の花の中で、ミツバチたちが懸命に蜜を集めて飛び交っていた。
「ぼんやりしてばかりいないで、すべきことを一つ一つやっていかねばね。」
「わるいなぁ、よろしくね」
「困ったときは、ちゃんと助けてね」

まだ植え込まれたばかりの細い枝にちいさな花が揺れていた。