2021年05月11日

アオイスミレの果実と種子


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 春一番、まだ肌寒い3月の初〜中頃に咲く「アオイスミレ」は、花期が短く色も咲き方も控えめで、見過ごされてしまうことも多いのですが、他のスミレとはひと味違う特徴を持っています。

アオイスミレ/葵菫 スミレ科 2019.03.19 日影沢
P3190425アオイスミレ (440x293).jpg
上弁はウサギの耳のように立ち上がって可愛らしく、側弁は横に開かず前に閉じ気味で奥ゆかしい。距も上向きにピョンと立っています。

 狭山丘陵内の私のフィールドでは、4年ほど前に見つけて以来、毎年観察していますが何故か開花が見られず、気付いたときには葉の下に果実がなっています。見逃した開花の果実なのか、閉鎖花の果実なのか不明です。5月の果実は、時期的に見て3月の開花の果実にしては遅いので恐らく閉鎖花のものではないかと思います。

 その果実が、この様に、まん丸、下向き、毛が生えている、と言うユニークな姿なのです。 葉は、花が咲いている頃は先が少し尖ったハート型ですが、今頃になると、やや先が丸くなり葉脈も際だって名前の由来通り「葵」似になってきます。
アオイスミレ実小P5061454.JPG アオイスミレ葉P5061451.JPG

 スミレの果実と言えば、三つに裂けて鞘のようになった部分が閉じて種子を弾き出すのが定番ですが、アオイスミレは三つに裂けるものの、開きっぱなしで、パン!っと種子(タネ)を弾き飛ばす行動は取らないようです。下の写真は、既に中のタネが無くなり空っぽになった様子です。このように少し上向きになっても、葉の上には伸び上がらず、地面近くに留まっています。

アオイスミレP5101619.JPG

 それでは、タネは自然にこぼれ落ちたのでしょうか? よくよく見ても、下にこぼれたタネは見当たりませんでした。十分に熟して、直に割れそうな果実を一つ摘んできて観察していると、一片が割れてタネが出てきました。タネ一粒は、普通のスミレより一回りも大きくふっくらとしていて、これまた大きなエライオソーム(Elaiosome、種枕、蟻誘引物質)が付いていました。

アオイスミレP5111605.JPG アオイスミレP5111621.JPG

ぎっしり詰まったタネが、どのように収まっているのかを見ようとしたら、あっという間に中のタネがこぼれ落ちてしまいました。
アオイスミレP5111609.JPG

中から出てきた9粒のタネ、沢山のタネを弾き飛ばす他のスミレとくらべると数が少ない。
アオイスミレP5111611.JPG

 数の少ない大きなタネに蟻を誘う大きなエライオソームを付けている所を見ると、少数精鋭で確実な蟻散布を狙っているようです。

 試しにエライオソームを引っ張ってみましたが、強く張り付いていて簡単には取れませんでした。簡単に取れてしまっては、タネを遠くに運んで貰えませんものね。「エライオソームだけを取って食べ、タネは巣の外に出す」という記述を読んだことがありますが、蟻の強い顎なら切り取りが可能なのでしょう。

 スミレ科のタネは、普通「好光性種子」なので、蟻の巣深く持ち込まれては発芽出来ません。地表近くに置いていって欲しい筈。大きいタネは、蟻にとっては重くて邪魔なので、若しかしたら、途中でエライオソームだけを切り取ってタネを置いていって貰うための方策かもしれません。

 果実を探すために、根元の枯れ葉を除いてみると、既に地上茎を伸ばした先に新しい芽を付けていました。
アオイスミレP4241173.JPG

 タネだけに頼らずとも、地上茎で株を増やしていけるので、何かの条件が合わない時は、開花の労を惜しんでいるのかもしれません。裏高尾の日影沢や蛇滝入口手前などで咲いている様子を考えると、恐らくこちらの場所では木々が育ちすぎて日照が不足なのではないかと想像しています。

 先日「小春日和」さんで頂いたアオイスミレのタネは、ニオイタチツボスミレと同じ日に撒いたのですが、ニオイタチツボの方は無数に発芽しているのに、アオイスミレの方は、たった二芽のみ。少数精鋭の筈が、極端に発芽率が悪く、この原因も不明です。発芽条件も他のスミレとちょっと異なるのかもしれません。

 実は、大きなエライオソームに発芽抑制物質でもあるのかとも思い、ハズキルーペを掛けて懸命に取り除いてみようとしたのですが、私の能力では引きちぎれただけで、綺麗に取り除くことは出来ませんでした。蟻さんの力を借りないと上手く行かないのかもしれません。

 ちょっと変わり者に興味を惹かれるのは、私が変人だからかな。貴重な発芽株を見守り、引き続き、観察を続けます。


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posted by 山桜 at 23:14| Comment(2) | 山川・自然観察 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
アオイスミレて言うんですね。
我が家の庭や、土手に沢山咲いているので何とも思わないで見ていました(笑)
Posted by 玉井人ひろた at 2021年05月26日 11:54
◆玉井人ひろたさん、こんばんは。

 草刈りをしてくれる土手はスミレの大好きな環境ですね。
お庭にも沢山咲いているなんて、羨ましいです。
地上茎での繁殖の他に、種からの発芽も多いですか?

 葵に似た葉っぱでは、福島の方はうっかり踏めませんね。
Posted by 山桜 at 2021年05月26日 20:33
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