昨晩、オリンピック中継を観ようとあちこちチャンネルを替えている時、BSPで名作ドラマ「蔵」(宮尾登美子 原作)のタイトルに目が留まりました。オリンピックも観たいけれど、ちょっとだけと見始めたのです。それがもう思いがけず、ぐっと引き込まれて離れられなくなり、とうとう4時間、観続けてしまいました。
大きな地主でもある蔵元の長男「意造」の嫁取りの時の姑の勘違いから、少しずつボタンの掛け違いで運命が狂い始めます。8人の子が亡くなった後の最後の娘、強く生きよの願いの籠もった名を持つ「烈(れつ)」はやがて失明の宣告を受け、妻「果穂」は娘の視力回復祈願巡礼の途中で亡くなります。不幸の連鎖を止めようと若い後妻を貰い誕生した男児も事故で亡くなります。
その間、身体の弱い妻「果穂」の代わりにその妹の「早穂」が烈を育て、蔵元の家事をも取り仕切って来ました。烈の父である義兄の意造を娘の頃から慕って来た気持を心の奥底に秘めつつ嫁がぬまま、この家の幸せの為に生き続ける早穂役の檀ふみさんがまた静謐で温かく、素晴らしい。
不作や酒造りの失敗で蔵元を閉めようとしていた意造に、光を失っても強く賢く成長した烈は存続を訴えます。反対していた父・意造もやがて烈を跡継ぎとして育てることに意欲を蘇らせ、烈は自らの力で思い人との結婚も成し遂げ、見事に蔵元は立ち直っていきます。
主人公の「烈」役の所に「井上真央」の名が見えました。そして子役が井上真央さんにとてもよく似ていたので、よくまぁそっくりな子役をみつけたものと思っていたら、なんとその子役が井上真央さんその人で、長じた娘役は「松たか子」さん、それもまた眩しいほどに若いのです。
相当に古いドラマだと分かりましたが、デジタルリマスター版なのか、とても画面が綺麗で古さが感じられませんでした。ただ良い意味での古さ、重厚で丁寧な作りは好もしく懐かしいものでした。
それにしても子役の井上真央さんの、段々と目が見えなくなっていく、不安、いらだち、そして遂に視力を失った時の姿は、演じていることを忘れてしまうほど自然で、本当にその境遇の子供がそこに存在しているようでした。こんな子役時代があったとは驚きました。
今の朝ドラに繰り返し出てくる「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」の台詞のように、烈は見えないからこそ、蔵で育っていく酒の息づかい、酒造りに携わる人々の歌や熱気を聞き取り、人々の心の動きを知り、自らに差し伸べられた優しい手の温もりから添うべき伴侶を見いだします。
また、蔵での酒造りのシーンが実に丁寧に描かれており、米を蒸して麹を作るところから発酵してふつふつと踊る音、やがて絞りだされる新酒の香りまで立ち上ってくるようで、思わずゴクリと喉が鳴り、お酒が飲みたくて堪らなくなりました。自分がこんなにお酒が好きなことをも思い出させてくれました。今もちょっと一杯頂いています。本当は薬を飲んでいるので禁酒中なのですが・・・。
初々しい新酒を口に含み、身体の隅々に染みこみ、新しい力が湧いてくるようなドラマを見せて頂きました。これも運命なのでしょうね。ありがたいことです。
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加えて意造の演技が共演者の個性を引き立てていたと思いました。
旧家の跡取りとして自分の思いは悪気なく正当化され相手の気持ちなど全く感じ取れない人柄を嫌味なく普通に演じることで早穂や烈の感情の変化が浮き彫りになっていたと思います。
宮尾登美子さんは伽羅の香を書いているように五感の中でも嗅覚について繊細な感情をお持ちなのだと思います。
化粧の匂い、発酵の匂いなど背景に漂う匂いが視聴者に伝わりストーリーに奥行きが生まれていたと思います。
やはりご覧でしたか・・・不思議な事に何となくそのように感じておりました。コメント下さりありがとうございます。
意造について書こうか迷いましたが、私は後半になって意造の心情を読み違っていたように感じ、きちんと小説を読んでみたいと思ったので、余りにも長くもなるし控えておきました。
仰るように、食事のシーンでも場にそぐわない化粧の香りが漂ってくるようで、烈が顔をしかめる気持に共感していました。お酒の腐敗臭をいち早く感じ取った烈ですから、周りの人の心情もひりひりと感じ取っていたことでしょう。分かり過ぎるのも辛いことですね。
兎に角、これ程一つの作品を深く
ご覧になっておられるのだなと驚きました。
話は変わりますが私は、同じ名前の人を
実社会で知り合いでおられます。
お父様が活動家で確か
朝鮮の社会活動家を尊敬されていたので同名を名付けられました。子供も明るく立派に成長されました。
確かたけし君だったと思いますが
この名前の読みは女性だから訓読みなのでしょうか?
観てみたいと思いましたよ。
観ようと思っていた訳ではなく、ちらと観始めたら止められなくなったのです。作品の持つ力なのでしょう。
烈(れつ)さんと名付ける所からして、意造の並々ならぬ「不幸の連鎖の断ち切り」への思いが、それこそ痛烈に伝わってきます。
早穂の気持を踏みにじる事になろうとも、貧しい生まれの若く健康な芸者を「跡継ぎを産ませる」為に、地主と末端の者との結びつき、又は、罪滅ぼしの為に選んだのか、意造の心が原作にはどう描かれているのでしょうか。
映画版を以前、ちょっと見始めたのですが、その時は、途中で寝てしまったようで、覚えていないのです。烈役だった宮沢りえが降板して一色紗英に、早穂は浅野ゆう子でした。機会があれば、そちらも観てみたいです。