

山に行く朝は早い。足早に駅に向かう途中、いつも雀に話しかけたり餌をやったりしながら、
「おう、行ってらっしゃい、若い人は元気でいいねぇ」
と、声を掛け見送ってくださるのは、白雪姫に出てくる小人の妖精のような小柄でつるりとした頭、にこにこ顔の老店主。
「ちっとも、若くはないんですけどね。」
と、言いながら、嬉しくて心がじんわり暖かになる。優しい言葉の力、ありがたい。
少し長く家を空ける予定で駅へ向かったその朝、その店は閉まったまま、店先に花束が一つ。
「えっ…?」
と、思いながらも、不吉な思いは打ち消して、
「仏壇用の花を誰かが届けてくれたのかも。」
と、思い直し、坂を上っていく足取りは、心なし重かった。
数日後、南国の旅からスーツケースを引いて帰ってくると、あの花束がそのまま、そこで茶色く萎れていた。
「ああ、おじいさん、本当に、お空へ旅立ってしまったの?」
向かいの木の上で、チュンチュン声がする。いつも餌を撒いて貰っていた雀たち、おじいさんはもう居なくなってしまったよ。幾ら待っても優しい笑顔も声も戻っては来ないんだよ。
いや、雀たちはきっとおじいさんが何処にいるか知っている。あんなに優しくしてくれたのだもの、今頃きっと「雀のお宿」で、一緒に楽しく暮らしているのだろう。そんな未来もいいな。私が優しくしてきたのは誰だろう。未来で待っていてくれるかな。

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雀は稲作の害鳥ですから、お稲荷さんでは見せしめに食べられてしまうのですね。ウズラも作物を食べてしまうのですか? 私は、野生のウズラを見たことがありません。
子供の頃、荻窪駅前の焼き鳥屋さんでも、雀や鶉が焼かれていましたが「骨っぽいぞ」との父の言葉に怖れをなし、口にしたことが無いままでした。
前回、伏見稲荷参道の食堂で一緒に食べた義父と義母は共にこの世になく、懐かしい味というか食感でした。
香りの記憶、味の記憶で、ふっと遠い記憶が思い起こされることがありますね。
反対に、父は長いこと煙草を止めていたのですが、父のことを思うと、煙草と海の匂いがして来ます。