秋の朝日が
窓辺に吊られた雫型のカット・クリスタルに差し込んだ。
夏はその存在を忘れられていたのに、
低くなったお日様の光を呼び込んで、
私はここに居ます!
と突然目覚めたかのようだった。
朝日がクリスタルに当たる最初の瞬間は、
何度見ても心が震える。
宝石の様なカット面でいくつにも分光された朝日は、
部屋中に無数の虹の子を散らす。
クリスタルが少しでも揺らげば、
部屋中の虹の子も一斉に揃って踊りだす。
大人になっていて良かった。
子供の頃これを見たら気が狂ってしまったかもしれぬ。
手をかざせば、自分の手のひらに虹を映す事さえ出来る。
子供の頃、あれほど憧れた虹を、
私は今、遂に手に入れたのだろうか
いいや、手のひらの虹は、つかもうとすれば、するりと逃れる
逃れて虹は、
掴もうとして固く握った私のこぶしの指の先で静かに笑っている。
ラベル:虹