2008年01月11日

百事如意

 年頭に鎌倉とんぼさんが、ご所蔵の幕末の日本画家「山本梅逸」の書画の内「百事如意」・「松」・「鶴」のおめでたい三葉で、

 「百事如意、
  末(松)代まで鶴のように気高くありますように」

との祈りを込めて画像を公開して下さいました。

 その「百事如意」がこちらです。
(ご許可を得て転載させて戴きました。1クリックで拡大できます。)
        hyakujinyoi.jpg
(「本紙はこのように変色をしてはおりませんが、フラッシュの加減でしょうか茶色が強くなりました。」 とのことでした。)

 この書画を拝見しているうちに、
「ここに描いてある柿以外の品々は何だろう?」
「この組み合わせには、何かの絵解きが隠されているのではないか?」

という疑問がむくむくと頭をもたげだし、例の如く、居ても立っても気になって仕方が無い状態に陥りました。 

 一番右が柿(ということは季節は「秋」)、一番左は多分茸の一種で万年茸の類だろうと目星をつけました。 問題は真中です。 花のようにも見えますが、花首だけを散らすことは縁起の上からも好もしいこととは思えません。 「百事」に掛けて「百合根」ではないかと想像してみました。 しかし、だとすれば「柿」と「茸」で「如意」となるのでしょうか?

 そこで鎌倉とんぼさんに伺ってみますと、茸はあの有名な不老長寿薬「霊芝(れいし)」とのこと。「このような書画にはよく描かれる題材です」というお話でした。

 キーワードが「柿」・「百合根」・「霊芝」と3つ揃ったところで調べてみますと、このような品々が描かれる場合、夫々に意味が割り振られていることが分りました。

 08-1 051.jpg
    実物でおめでたい図を再現してみました^^
 

つまり、「百合=百」・「柿(し・じ)=事」・「霊芝=如意」を意味し、3つの画を見るだけで、その意味が分かるようになっているのです。

 調べた例を挙げてみますと…

    松:不老、仙友、万年、
    竹:平安、高節、寒玉
    筍:子孫繁栄、健児
    梅:仙姿、玉骨、歳寒、香雪、春
    蘭:君子、幽香、幽谷佳人、幽客
  霊芝:如意、霊寿、長生、万年
    蓮: 清客、浄友、花中君子
  蓮根:玉節 
  牡丹:富貴、花王、国香
  薔薇:長春
  水仙:幽香、歳寒
  百合:和合
    橘:金砲、吉
  大柚:大吉(大橘から) 
  柘榴:百子、百子同室、多子 
  葡萄:玉露

これ等を組み合わせて意味を成すものと、二種・三種での決まりものの組み合わせもあるようです。

松・竹「不老長寿」  竹・梅「君子之交」 
実南天・水仙「天仙」
椿・柳「一枯一栄」(←椿と柳で「一期一会」に似た言葉とは…)

松・百合根・柘榴「文人閑居」  松・霊芝・橙「不老瑞祥」
水仙・霊芝・実南天「天仙益寿」 百合・柿・柘榴「百事多子」
百合・柿・霊芝「百事如意」
仏手柑・蘭・霊芝「高士清友」  玉蘭・海棠・梔子花「玉堂獅子」

参考サイト:
http://www.suiboku.jp/bun/gadai2.htm 「(c)Nagao Masahiroさん」
http://www.sala.or.jp/~matu/bun12.htm 「煎茶道 松月流」

 思わぬことからこんな楽しい絵解きが出来、浮かれた気持で初釜に向いますと、懐石の中には膾や百合根、そして玄関に飾ってあったのは、先生のお宅の裏に生えていたという万年茸らしき茸…。
 
「先生、素晴らしい! これは吉兆ですよ〜」
と申し上げたら、
「どうぞ、良かったらお持ちになって^^ 
 また生えますから…」
と仰って下さったので、お言葉に甘え頂戴して参りました。

 その万年茸*、八百屋さんで仕入れてきた百合根、友人に戴いた柿で山本梅逸画伯の真似をしてみましたのが上の2枚目の写真です。
ご覧の皆様にもどうか「百事如意」が叶いますように!

*万年茸=霊芝 なのですが、後でよく調べてみますと、この写真の茸は同じ「マンネンタケ科」の「孫杓子」という種類のようです。
 霊芝が落葉樹に生えるのに対し、孫杓子は針葉樹に生え霊芝より柄の部分が長いという違いがあるそうです。 
また、マゴジャクシは日本だけの自生種。 梅逸画伯の描かれた茸の柄は同じように長いですね…若しかしたら孫杓子を見て描かれたのかも?
 傘の部分の違いは開き加減の差もあると思います。
 何の木に生えていたのか今度先生に伺ってみます。



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posted by 山桜 at 00:00| Comment(20) | TrackBack(0) | 美術・書画・工芸 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 こんばんは お邪魔します

霊芝にもいろいろな種類があるんですね
以前 老師の家の庭に出たという物を
見せて頂いたことがあります
柄は真っ直ぐで長かったと記憶しています

実物で再現するなんて素晴らしい!
良いものを見せて頂きました
Posted by ネットの中のお父さん at 2008年01月24日 17:55
霊芝は苦かったですが、薬効があり癌に効くといわれ昔煎じて母に飲ませていました。
煎茶席のお茶会でやはりこのようなかざりになっていて、興味津々でみてきたのですが それ以上調べることはしませんでした。
きちんと調べ 実際に写真をとられるなんて やっぱり山桜様は違いますね。
ためになるお話ありがとうございました。 
Posted by チャチャ at 2008年01月24日 20:27
いや〜
勉強になりました
これは面白いですね
しかも実物で(^ ^)
Posted by 幽黙 at 2008年01月24日 21:27
眼福、眼福o(⌒▽⌒)o♪♪
お福分けを賜れるなんて幸せだわ〜♪♪
Posted by やゆよ at 2008年01月24日 23:42
凄い探究心ですね!感服致しました。
一枚の絵から、ここまで突き詰めるとは・・・

絵解きが出来たときは、やったー!!と言う気分だったでしょうね。
読んでて、こちらまで楽しくなりました。

良い勉強させて貰いました。
Posted by kagaan at 2008年01月25日 00:03
わ〜凄いな〜
疑問の糸口が見つかり〜
するする〜
解けていく山桜さんって素晴らしいですね。

私もちょっと疑問に思っている事があったのですがなんとなくわかって嬉しいです・・・感謝。
Posted by あやめ at 2008年01月25日 04:34
山桜さん、素晴らしいですね!

持っている本人がボンクラですので、、、お恥ずかしい。
柿と百合と霊芝の組み合わせ、、絵解きがあったのですね。感服です。

しかし、この画帳の絵はどれもサラサラと描いても筆の運びが生きていて素晴らしいですが、写真もまた一段と迫力があります。
「百事如意」が実感として伝わってきます。

機会があったら順次 載せてみます。
Posted by 鎌倉とんぼ at 2008年01月25日 10:33
◆ネットの中のお父さん、こんにちは

 霊芝の種類と薬効については「神農本草経」に

「赤芝」血液・心臓・頭
「青芝」目・肝臓・肝臓・思いやりの心
「黄芝」胸・腹部・精神の安定
「白芝」咳・胸・喉・肺・精神活動
「黒芝」膀胱・腎臓・耳・目・口・鼻・尿道・肛門・頭の働き
「紫芝」聴覚障害・関節・精気向上・筋肉・骨・顔色

 などとあります。 孫杓子は「紫芝」あたりでしょうか?
霊芝のことを孫杓子と呼ぶ地方もあり、あまり厳密に区別
していなかったようにも感じます。

 形は幼茸〜成茸までの間に変化するので、必ずしも画の
ような漏斗型という訳ではないようです。
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:06
◆チャチャさん、こんにちは
 煎茶道にはこのように詩書画の中の画題を取り入れて花材として、
生けたり盛ったりして床飾りにする「煎茶花」「文人華」というもの
があるのですね。今回のことで初めて知り、人が面白いと思うこと
って今も昔も似てるなぁと嬉しくなりました。

 先に先生の所で万年茸を拝見していなければ、こんなこと、
思いつかなかったと思います。 百合根と干柿をお料理で戴き
更に帰りに万年茸まで戴き、幸運にも見せて戴いた「百事如意」、
この機会を逃してはならじ!と頑張ってしまいました^^
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:23
◆幽黙さん、こんにちは
 幽黙さんはきっとご存知で、何かもっと別のお話などを
伺えるのでは〜と思ってました^^ 今まで何故この組合せ?
と思っていた文人画などの絵解きも出来たら楽しいですね♪
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:26
◆やゆよん、こんにちは
 運命っていったら大袈裟だけど、こんな展開になってみると、
去年の秋にふと目に止まった時から、万年茸は私の所に来る
さだめだったのかな〜なんて都合の良いことを思わず…(^^;

 年末はあれほど見かけた百合根がなかなか店頭に無くて、
デパートにもなかったら、庭の百合を掘り起こそうかと(笑)
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:31
◆kagaanさん、こんにちは
 はい、それはもう、嬉しくてバンザーイ \(^O^)/ヤッター!
の気分でした♪

 しかし、こうしてすぐに脇道にそれて興味が広がってしまい、
肝心のお点前の稽古が疎かに…(。。;)
柄杓立からの火箸の出し入れの所作など、忘れない内に
メモ&お稽古しておかなくては〜 確かkagaanさんも同じ
お稽古内容でしたね、分らなくなったら教えて下さいませね〜
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:39
◆あやめさん、こんにちは
 疑問に思って心掛けていてもなかなか分らないことがまま
あるかと思うと、するすると夢のように解けて行くこともあり、
そんな時は、天から何かが降りて来て下さったのかと思わず
拝みたくなります。

 私は「椿と柳」で「一枯一栄」がとても気に入りました。
常緑樹と落葉樹、盛衰を繰り返し永遠に続く時の流れが表されて
いたのですね。 

 一期一会と一枯一栄(いっこいちえい)が似ているのも壺でした♪
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 15:53
◆鎌倉とんぼさん、ありがとうございます!
 十二支の始まり子歳の年頭からこんな幸先の良い吉兆を
賜り、何とお礼を申し上げてよいやら分りません<( _ _ )>

 本当に「百事如意」になるかどうかは、本人に「意」がなくては
どうにもなりませんので、気合も新たに頑張りたいです。

 写真を撮る際、柿と百合根が大きく構図のバランスが
悪かったので、一つずつにしてしまったのですが、後で
考えてみると、全てが「2つずつ」という所にも何か意味が
あったのでは?とも思えてきました。 もう柿と百合根一つは
お腹の中、もう一つの百合根は庭の土の中(どんな花が咲くか
見てみたいと思い♪)、残念ですが仕方ありません(^^;

 山本梅逸画伯の他の作品、拝見できますのを楽しみに
しております。(私は緻密な本作よりも却ってご所蔵の画帳のような
軽妙な筆運びの方が好みです。 梅逸さんごめんなさい!)
Posted by 山桜 at 2008年01月25日 16:08
なかなか思ったようにはならないのが現実で・・・
私も並べてみようかなぁ〜
Posted by 酒徒善人 at 2008年01月25日 19:08
◆酒徒善人さん、おはようございます
 善人さんのお家には、吉祥宝物が揃っているのでしょう!?
縁起の良い盛り合せにして飾って福を呼び寄せましょう♪
Posted by 山桜 at 2008年01月26日 08:02
研究熱心な山桜さんの面目躍如ですね。お茶がいろいろ面白い事を考えるきっかけ二なっているのでしょうか。又、楽しく拝読させていただきます。
Posted by 山口ももり at 2008年01月28日 15:58
◆山口ももりさん、おはようございます
 昨日は当Seesaaブログのシステム障害により更新内容も
新しいコメントも表示されない状態となり、ご迷惑をおかけ
致しました。 申し訳ありません。<( _ _ )>

 え〜っ好きなことと気になることだけに執心しておりまする(^^;

>お茶がいろいろ面白い事を考えるきっかけに…

 そこを期待しての入門でもあった訳で、本当に期待通り!
茶の湯をきっかけにして面白い世界が広がって幸せです♪
Posted by 山桜 at 2008年01月29日 09:57
>「百事如意」が叶いますように!
年明けにいい言葉です。私も叶いますように!
それと、今年は治癒力・免疫力を高める年が
目標でしたので、私には「白芝」「黒芝」がいいようですね。
良い事を教えていただきました。(笑)
Posted by 青い流れ星 at 2008年01月30日 21:23
◆青い流れ星さん、こんにちは
 コメントの内容までよく目を通して下さって嬉しいです♪
今は霊芝も栽培できるようになっていますが、天然物を
見つけると嬉しさも倍増ですよね。 畑仕事の行き帰りに
林の中にも目を向けてみて下さい。 白芝・黒芝がみつかると
いいですね〜^^
Posted by 山桜 at 2008年01月31日 10:42
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